2021年11月、中国恒大集団はドル建て債の8,249万ドル分の利払いが出来なくなり、デフォルトしました。
このデフォルトは世界中の株式市場に影響を与え、今後再びリーマンショックのような金融危機が引き起こされるのかと考えられもしました。
ですが、そもそもどうして中国恒大集団はデフォルトの危機に陥っていたのでしょうか?
この記事では中国恒大集団がデフォルトした理由を解説して、今後の金融危機の影響についても解説していきます。
中国株・ETFのおすすめ7選!買い方や投資の注意点を合わせて紹介
中国恒大集団とは?
恒大集団(英語:China Evergrande Group)は、中国大手の不動産デベロッパー会社です。
中国国内の280以上の都市で1,300以上の不動産関連事業を行い、860社以上の企業と戦略提携しているほどの大企業です。
不動産業以外にも食品業、観光業、インターネット関連サービス、保険、自動車など様々な分野に展開していました。
世界企業の売上高ランキング「FORTUNE Global 500」の2021年版では、恒大集団は122位と高順位に位置しています。
日本企業のパナソニックが154位なので、相当大規模の会社だとわかるでしょう。
中国恒大集団の成長は中国不動産価格の上昇
中国恒大集団は比較的短期間で経済成長しましたが、この成長は中国不動産価格の上昇のおかげです。
不動産バブルの勢いに乗り、不動産価格の上昇に合わせてマンション開発を進めることで収益を増大させました。
売上高は世界的に見ても大きかったですが、先行投資のために銀行や投資家から多額の資金を集めていたため、恒大集団の負債総額は約33.4兆円まで積み上がってしまい、耐え切れなくなってデフォルトしました。
中国恒大集団はドル建て公募社債初のデフォルト
中国恒大集団は、ドル建て公募社債初のデフォルトで、企業規模と合わせて注目を集めました。
日本時間11月7日、中国恒大はドル建て債の8,249万ドル分の利払いの支払い期限を迎えましたが、支払いをしなかったことでデフォルトとみなされました。
しかし、今回のデフォルトは、今まで先延ばしにしていた元利返済の削減などの債務再編(リストラ)交渉が本格的に始まる兆候と考えることが出来ます。
格付けはSDに
S&Pグローバル・レーティングという格付け会社は、経営危機に陥った中国恒大集団の格付けを「CC」から選択的債務不履行(デフォルト)を意味する「SD」に引き下げました。
SDとは、債務者がある特定の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとみなされるランクです。
そのため、中国恒大集団は今回デフォルトが起こりましたが、今後の債務支払いは実施すると考えられています。
また、デフォルトが起こる前から負債率の高さから格付けランクはCCだったことを考えると、いつデフォルトが起こってもおかしくない状態だったことは分かります。
なお、現在は格付けに必要な情報が不十分であると判断し、S&Pグローバル・レーティングは評価を取りやめています。
中国当局主導で債務再編交渉へ
中国恒大集団がデフォルトしたことで、中国当局が債務再編交渉に積極的に関わりました。
広東省政府は常駐の監督チームを中国恒大に派遣して、中国恒大集団の社内にリスク管理委員会を設置して、手厚く外貨建て債務の再編交渉を行っていく体制です。
中国恒大集団の外貨建て債務を保有する海外投資家や金融市場全体にとっては、ようやく問題解決に動き出してくれたと判断されました。
大唐国際発電有限公司の子会社が破産した理由は?破産手続き終了までの流れを徹底紹介
中国恒大集団がデフォルトとなった理由
中国恒大集団がそもそもデフォルトになった理由は、大きく分けると次の2点です。
- 負債率の高い投資を続けた
- フリー・キャッシュフローの不足
先ほどドル建て債の8,249万ドル分の利払いが出来なかったと前述しましたが、もともと中国恒大集団は負債率が高く現金を持っていなかったため、支払いできなかったと推測できます。
以下にそれぞれの理由を解説していきます。
負債率の高い投資を続けた
中国恒大集団は、2022年7月時点で負債総額は約41兆円と非常に高額な負債を抱えています。
そもそも不動産業では物件取得や建設などのために、負債が他業界よりも高くなる傾向があります。
しかし中国恒大集団の負債比率は1,300%を超えており、経営のほとんどを他人資本に頼っていることが分かります。
負債比率が900%を超えると返済に企てる自己資本が足りないため、倒産しやすいと言われています。
中国恒大集団は不動産から事業拡大していましたが、莫大な負債を抱えながら事業投資を行っていたため他の分野でも取り返せないほどに負債が大きくなっていました。
フリー・キャッシュフローの不足
中国恒大集団は、黒字倒産でありがちな手元の「現金」が尽きてしまうフリー・キャッシュフローの不足に陥っていました。
デフォルト直近の3年間では、累計フリー・キャッシュフローがプラスになったことは一度もありません。
営業活動によるCFがマイナスにも関わらず、投資活動を辞めずに資金調達でマイナスを賄っていたので、どんどん負債が大きくなっていきました。
負債比率の大きさとフリー・キャッシュフローの不足で中国恒大集団はデフォルトに陥りました。
キャッシュフローの不足は中国当局の政策が原因
中国恒大集団のフリー・キャッシュフローの不足は、実は中国当局の政策が原因です。
習近平国家主席は格差を是正するために、「共同富裕(ともに豊かになる)」の実現を掲げ、2020年8月に銀行の不動産向け融資規制を強化するために三道紅線を導入しました。
この規制強化によって、中国恒大集団は現金の調達が難しくなり、フリー・キャッシュフローが不足しました。
三道紅線とは
中国政府が実施した三道紅線とは、次の内容にいくつ当てはまるかによって、現金融資を受けられる割合を変更する政策です。
- 総負債比率(総負債÷総資産×100)が70%以上
- 純負債資本比率(有利子負債から現預金を控除したもの÷資本×100)が100%以上
- 現金短期負債比率(現預金÷短期負債×100)が100%以下
三つの基準に当てはまった数によって、有利子負債増加率が次のように変わります。
規定を越えた個数 | 有利子負債増加率 |
---|---|
0(グリーンカード) | 15% |
1(オレンジカード) | 10% |
2(イエローカード) | 5% |
3(レッドカード) | 負債の増加を認めない |
引用:野村資本市場研究所
中国恒大集団はすべての基準に該当していた(レッドカード)ため、銀行からの融資に制限がかかり、現金が不足しました。
加えてこの規制が発令されたことに8月の住宅販売が前年同月比19.7%減少し、不動産業を営む恒大集団は二重で打撃を受けました。
そのため2021年にはキャッシュフローの項目がすべてマイナスになり、33.4兆円の負債を返済できなくなりました。
【2021年~2022年】中国株の見通し!バブル崩壊や金融政策正常化について詳しく解説
中国恒大集団のデフォルト前後の株価は?
当然ですが、中国恒大集団の株価はデフォルト前に下落しています。
具体的には2020年7月から2021年の9月末までに約89%下落しているため、中国政府の政策が発令された時期から株価が下落していることが分かります。
株式市場は利払い問題で中国恒大集団が注目を集める前から、無理のある資金繰りや中国の不動産規制から警戒していたことが分かります。
デフォルト以前から落ち込んでいた株価は、デフォルト後もそれ以上下がることはなく一定の水準で停滞しています。
中国恒大集団のデフォルトは金融危機を引き起こす?
中国恒大集団のデフォルトまでの流れは、「第2のリーマンショック」とも呼ばれるほど危険視されていました。
そのためデフォルトに陥った後、世界的な金融危機に陥ってしまうのではないかという意見もありました。
しかし、実際には中国恒大集団の債務問題はリーマンショックのような金融危機を引き起こさず、一時的な株式変動でしかありませんでした。
リーマンショックは格付機関が債券を正しく評価できておらず、BB評価の企業がAAAと評価されているような状況でした。
今回の中国恒大集団が発行していた債券は投機的格付債なので、投資家はリスクを承知で投資しており、そもそもデフォルト前に手放していた人が多いです。
またリーマン・ブラザーズの負債総額は63兆円と今回の中国恒大集団の約2倍と規模も異なります。
そのため、今回の中国恒大集団のデフォルトは世界市場にはそれほど大きな影響を与えることなく収まりました。
中国恒大集団のデフォルトは中国政府の原因で起こったが、世界的に影響は少ない
中国恒大集団のデフォルトは世界的に注目を集めましたが、元々の経営不振と中国政府の規制強化から起こったことで、世界的な影響は少ないです。
中国株は特に政府の規制強化などの影響を受けやすいので、中国恒大集団のような中国企業の株式を購入したい人は気をつけましょう。