株式併合は企業の生存戦略の一つです。株価の下落や管理コストを抑えることが可能になるので、東京証券取引所の上場廃止になる基準を下回らずにすみます。
ただし大口の投資家以外の個人投資家にとっては、株の買い増しや権利の消失などのデメリットを含んでいるため注意が必要です。
そこで、この記事では株式併合によって投資家が損をしないためのポイントを解説します。
企業の都合に巻き込まれる前に対処することで、リスクを回避できるので本記事の内容を参考にしてください。
株式併合の目的
株式併合は以下3つの目的で行われます。
- 株式の管理コストを抑える
- 下落している株価を持ち直す
- 少数株主の締め出す
主に経営を建て直すために用いられることが多く、財政状況の悪化や企業の方針転換の際に行われる施策です。
株式併合によって増えすぎた株式をまとめることができるため、経費や少数株主などの管理コストを抑えて効率のいい経営を行いやすくなります。
ただし投資家に企業の業績が低迷していると判断されることもあるため、投資先としての不安要素を与えてしまいかねません。
他には少数株主の締め出しによる訴訟のリスクもあるので、企業の都合だけでは実行できない施策でもあります。
増えすぎた株式を減少させて管理コストを抑える
株式を減少させると株主の数が減るため、運営に必要な管理のコストを抑えられます。
株主が増えてしまう管理コストとは、主に株主総会の運営や招集通知などの手続きです。
株主併合をすることでコストの削減になるため、企業の管理や運営にかかる負担を軽減できます。
そもそも企業は株式発行によって投資を受けることで経営が続けられますが、株式が増えすぎると株主の意向に配慮しなければなりません。
経営が続くと不要なコストを増やしかねないので、株式併合によって管理コストの見直しを行い、効率のいい経営に繋がりやすくなります。
企業の業績の改善が見込まれると、投資家がリターンを得る可能性が高まるため、企業と資本家どちらにとってもメリットの大きいです。
下落している株価を持ち直す
株式併合は株価が下落している状態を持ち直すために行われることが多いので、管理コストの削減だけでなく株価の価値を高めるための施策でもあります。
株価が下がっている企業は、最低投資金額が低い状態である「低位株」と見なされやすく、投資家からすると株価の価値が低いと判断されてしまいます。
そこで株式併合を行うことで、株式の総額を維持したまま株式の数を減らして株価を高めることができるのです。
数が減った場合でも保有している資産の量は変わらないので、株主の数を減らし経営の見直しや建て直しを図ることが可能になります。
他には発行株式数が相場に見合わない時など、株式相場の状況に応じて株式の総量を調整できるため、企業にとっては株価を調整するために有効な手段になるわけです。
少数株主の締め出し
株主併合は少数株主を減らす目的でも使用されます。企業が大株主以外の少数株主を減らすことを「スクイーズアウト」と呼び、企業の再建などの際に実行されやすい施策です。
例えば企業の方向性を決める際に、少数株主の数を減らすことで大株主の意見が通りやすくなるため、意思決定がスムーズになるメリットがあります。
他には投機目的の株主の投資を避けやすくなり、企業の経営を安定させるために投資する人を集めやすくなります。
また株式の最低購入金額が上がると投資する人が減ってしまうので、場合によっては業績を悪化させることになりかねません。
ただしスクイーズアウトには不当な決議として訴訟を起こされる可能性もあるため、弁護士などの専門家と慎重な協議が必要になります。
株式併合と上場廃止の関連性
企業にとって上場廃止を避けることは、経費削減と会社の建て直しに繋がる手段です。
上場廃止とは、株式の上場が取り消しになることです。東京証券取引所は、財政状況が優良な企業に対して上場させる必要があるので、経営状況が悪い企業は上場させません。
東京証券取引所が推奨する必要最低投資金額は5万円以上から50万円未満です。
上場廃止を避けるためには、5万円以下を下回らない価格に維持しなければなりません。
そのため株式併合による株式の減少によって、企業の株価を上場廃止させないことが可能になるのです。
低位株を増やし続ける現状を変えるためには、総資産額を変えず株式を減らす株式併合が有効な手段になります。
株式併合は上場廃止基準から逃れる手段でもある
上場廃止基準とは、株式の上場を取り消しになる基準を指します。企業が上場廃止基準を逃れるためには、東京証券取引所から財政状況の懸念があると判断されてはいけません。
東京証券取引所は投資家保護の観点から、株式を売却できない状況や企業の財務状況に投資することを避ける理由で企業の上場を廃止させます。
そのため企業は株式併合によって株価の上昇や経営の建て直しを図ることで、企業の価値を高めることで上場廃止基準から逃れられやすくなります。
さらに業績が悪化している企業が欠損金(企業の赤字)を埋める目的で株式併合が行われて、企業の株価を維持させる目的ための手段になるのです。
しかし投資家にとっては1株あたりの利益が低下するため、企業の都合で行われる施策であることに注意しましょう。
実際に株式併合をおこなった企業を紹介
実際に株式併合をおこなった企業は以下の3つです。
- みずほ銀行
- オンキヨー
- CAICA
どの企業も株価を東京証券取引所の基準に合わせるために、株式併合を行いました。
実際に株式の数を10分の1、もしくは2分の1に減らして株価を上げることに成功しています。
株価の低迷によって低位株が増えると、投資よりも投機目的の資金が集まりやすくなるので、東京証券取引所で取引される銘柄としては適切ではありません。
株式併合を行う企業は、業績が悪くなったことを認知されがちでした。
しかし最近の傾向としては、売買単位の変更とともに実施されることが多いので株価が上昇しやすくなっています。
実際にスクイーズアウトや株価の上昇に繋がっているため、株式併合は企業にとってメリットの大きい施策といえます。
みずほ銀行
引用元:みずほ銀行
みずほ銀行は2020年6月25日の第18期定時株主総会の決議に基づいて、同年10月1日に普通株式10株を1株に併合する株式併合を行いました。
同社の2020年3月31日時点における発行済株式総数約253億株は、銀行業界だけでなく東京証券取引所の上場企業の中で最も株式数が多い状態です。
株式併合によって1株を10株にすることで、低位株の減少やスクイーズアウトを実行し、さらに売買単価を100株に変更しました。
オンキヨー
引用元:ONKYO
オンキヨーは2020年5月15日の取締役会における決議に基づき、同年6月25日開催予定の第10期定時株主総会で株式5株を1株に株式併合することが決定されました。
同社は音響機器やスピーカー、電子機器などを扱うメーカーです。パソコンやスマートフォンで音楽を聴く人が増えたことで、AV機器の需要減少によって経営が悪化をしています。
株式併合によって株価の上昇と経営の建て直しを図り、株式管理コストの削減を行う目的があります。
他には株主優待の持ち株の基準を変更しました。毎年9月末と3月末時点の100株以上の所有から20株以上までに変更し、音楽を購入する際に利用できるクーポン券が発行されます。
CAICA
引用元:CAICA
CAICAは2021年1月28日開催予定の第32期定時株主総会の決議に基づいて、2021年5月1日をもって株式10株を1株に株式併合するとを決議が決定します。
同社は株価が東京証券取引所が定める基準に達していないことから、望ましい投資単位に近づけるため株式併合が行われました。
また低位株は投機的対象として株価の乱高下が生じさせやすくなるので、投機を防ぐ目的として投資家への影響を軽減するためでもあります。
CAICAは暗号資産交換所のZaifを子会社とすることで、暗号資産を用いた仮想通貨事業を展開し、業績を回復させるために活動中です。
ちなみに株主優待は100株以上の株主を対象に暗号資産「CAICAコイン」を1CICCが進呈されるなど、仮想通貨の投資家を優遇しています。
株式併合による投資家への影響
株式併合を行うと企業にとってはメリットが大きいですが、投資家は株主の権利を失う可能性があるので注意しましょう。
株は1単元で100株なので、株式の数を減らすことで「単元未満株」や「端株」が発生しやすくなります。
単元未満株は1株以上で100株に満たない株のことで、一方の端株は1株に満たない株を指します。
単元未満株は買い増しによって100株までにする、もしくは売却して解消するしかありません。
端株は株式併合を行った企業が買取る、または売却した代金を株主に分配することになります。
企業が株主併合を行う際は単元未満株や端株についての説明があるので、指示に従って株式を処理しなければなりません。
株主の権利を失ってしまう可能性がある
株式併合によって単元未満の株式所有になってしまうと、株主に権利を失います。
株式併合後は、自分が所有している株式の総数を確認しなければ、知らない間に権利を失ってしまいます。
しかし特別決議では議決権の3分の2以上の賛成が必要になるため、急な決定ではなく事前に告知がされるので安心してください。
株式併合は株主に与える影響が大きいことで、普通決議よりも厳格な手続きによって規定されます。
株式併合は企業側のメリットが大きいが投資家にはデメリットが多い
株式併合は株式所有の利益を失うだけでなく、権利すらなくなる可能性を持っているので注意が必要です。
しかし個人単位では損することが増えたとしても、企業側としては株価の上昇や経営の建て直しに有効なので、長期間の投資する人にとってはメリットになります。
また東京証券取引所は株価の基準を下回る企業は扱わない方針なので、企業が存続するためには必要になる戦略といえるでしょう。
投資家としては企業の経済状況から市場の変化などを考慮して、株式併合に備えて投資することで対処することをおすすめします。